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◆目次(収録内容)
生物学 ~この不思議なる神学~
はじまり
第一講目 黄金の砂漠
第二講目 生命の継続性
第三講目 特別講義 地下崩壊の仕組み
流砂の王国
◆立ち読みコーナー
「おや、君かい? 元気でやっているようだね」
十数年ぶりの再会だというのに、昨日授業を終えて別れたばかりのような口
調で彼は振り向きざまに、にやりと笑った。少しばかり年は重ねたものの学生
時代を思い出す表情に懐かしさを感じる。何かをひらめいたような、たくらん
でいるような笑い方。
「これは君の趣味かい?」
僕はあきれて言った。
何しろ、彼の木製の机の上には、ここは研究室であるからして普通なら本が
山積みになっているところなのだが、色鮮やかなイチョウの葉が山盛りになっ
ていたからである。
こう言う奇妙な状態な時には確実に何かをたくらんでいること間違いなしの
はずだ。
「趣味ではなく研究さ」
「表の並木道から拾ってきたのかい? 焼き芋でも作るつもり?」
イチョウの山盛りから一枚指でつまんで持ち上げ、彼の方に示しながらたず
ねる。
「残念ながら、イチョウの葉は水分を多く含んでいるから、そう簡単には燃え
ないと言っておこう」
左目だけを一回閉じて、おどけた表情で指摘してくる。
「じゃあ冬籠もり用のふとんにでもするのかい?」
十数年ぶりに再会したばかりだと言うのに、いつの間にか学生時代のような
やりとりになってしまう。そう。彼はいつも突拍子もないことばかり思いつい
て実行していたのだ。僕はいつも彼の演説を聞き、呆れていたっけ。
「言っておくがね、僕だって人類の未来のため、この地球のために、研究をし
ていることだってあるんだぜ?」
それは初耳だ。
