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書籍案内

​小説

湖畔ホテルの少年 文字強調表紙 縮小版.JPG

湖畔ホテルの少年
 第一刷発行 2024年7月7日
 著 者 塔上月扉
 発行者 謎降舎
 (C)TOUGAMI TUKITO
 (C)MEIKOSYA
 価格 200円
​ 電子書籍

kindle unlimited対象

湖畔ホテルの少年

 ​塔上月扉

​ 【少年、夏休み、湖畔ホテル、冒険、不思議】

◆あらすじ


 村はずれの静かな湖のほとりに、いつも白い霧をまとわりつかせている洋館ホテルの存在は、村の少年たちにとっては、足を踏み入れることができないゆえに、惹きつけられる存在だった。

 夏の間だけ開業する白亜のホテル。

 その夏、僕は一人きりでホテルに探検に出かけた。

​ ホテルの庭園をさまよっている時、一人の少年と出会う。

 こんな田舎のホテルに子供がいるんだと、僕は意外に思うが、少年に案内されて、とうとうホテルの中へ入る。

 少年はホテルの宿泊者らしいのだが……?

 

◆目次(収録内容)

  プロローグ

  秘密の通路

  回想 ~遠い夏の出来事~

  湖畔ホテル

  庭園迷路

  湖畔ホテルの少年

  湖畔ホテル内覧

  ティーサロンのおやつ

  湖畔遊覧

  約束のために

  二人の上級生

  ホテル再来訪

  夏休みの野外研究

  秘密の庭

  夕立

  回想終わり

  あの日の……

  (追記)

◆立ち読みコーナー

 

  【プロローグ】

 緑の山々の底に横たわるその青い湖には、いつもどこかに必ず白い霧がうっすらと漂い、めったに湖全体を見渡すことはできなかった。
 そんな白い霧でかすみがちな湖を見下ろすように、小高い山の上に赤茶色の三角形の屋根を持つ白壁の落ち着いた洋館ホテルが建っていた。
 ホテルは村からは、まったく見えない。
 だが、山の森を抜けてゆくと、少しずつその姿が見えてくる。
 最初は、一番高い塔の飾りが、次に三角形の塔が、そして洒落た白壁に、瀟洒なデザインの窓枠。しかし高台に建っているため、二階より下の建物の様子は、森の木々にしっかりと遮られ、その入り口を見ることはできなかった。
 ホテルの入り口へと続く道は、黒光りする鋼鉄の門に閉ざされており、好奇心旺盛な少年たちがホテルの敷地へ忍び込む余地は、まったくなかった。
 この頑丈な鋼鉄の門は、しなやかな植物の蔓を形取った異国風の造形をしており、その典雅な趣は、門の前までたどりついた少年たちのホテルへの好奇心と憧れとを激しく刺激するのだが、同時に中に入ることを完全に拒絶し、幾人もの冒険好きな少年たちを落胆させてきたのだった。

   * *

 村外れの森を抜けた小山の上に建っているこの洋館ホテルは、夏の間だけ営業している。
 夏は避暑に向いた涼しい気候だが、湖の周辺には霧がかかることが多く、見晴らしが良いとはいえない。また冬は雪に埋もれるために営業をしていなかった。
 また、この村外れの湖畔のホテルには、村人たちはめったに足を踏み入れない。オーナーも村人ではないため、交流はまったくない。
 近くにも別にこれといった観光施設はないため、大挙して観光客が押し寄せてくることはない。わざわざやってくる客の姿は、まばらだ。たいていは人の気配もなく、白い霧にかすむ洋館ホテルは、いつでも静寂に包まれていた。
 そんな静かなホテルに、少しだけ人影を見せるのが夏である。
 確実に夏だけは、村の外から、幾人もの大人たちがやってきた。
 そして、そこに来る大人たちは、村人がしないようなボート遊びや、魚釣り(フィッシングと言うらしい)、乗馬やサイクリングなどをして過ごしていくのだった。
 そんな都会から夏だけ来る人々を、僕らはとても物珍しげに観察したものだった。もちろんホテルに入り込むことは禁止されていたから、こっそりと森の木々の間から、眺めるだけではあったのだが。まるで、夏の自由課題として何かを観察しようとしているかのように。
 その観察心は、見慣れぬものへの興味と、好奇心と……そして当時は自覚していなかったが、見ることができぬ対象への秘密めいたあこがれを伴う思いからなりたっていた。そして毎年、夏が来るたびに同じ思いに取り付かれた少年たちが、その湖畔から、静寂を保つ洋館ホテルを見上げていたものだった。

 そこには、今思えば、大人にしか得られない世界があり、子供だった僕たちはそんな大人の余裕な生活態度にあこがれていたのだと思う。はやく大人になりたいと。
 子供とは違う、何にも縛られない余暇の過ごし方。
 自分が何を好きか知っていて、その自分が好きなことを、休暇を取って、ゆったりじっくりと取り組む。
 端から見たら、つまらないとか、変わっているとか思えることでも、ホテルに来ていたその「大人」たちは、たぶんそれをしていると自分が楽しいから、という理由でしていたのだと思う。
 人目を気にせず。
 いや、気にする必要のないこのホテルにわざわざ来ていたのかもしれない。自分たちの密かな隠れ家として。

 いや、ホテルの描写はこのぐらいにしておこう。
 とにかく、村の外れのさらに向こう側に存在する、その静かな湖のほとりに、いつも白い霧をまとわりつかせて存在する洋館ホテルの存在は、当時の村の少年たちにとっては、足を踏み入れることのできないゆえに、惹きつけるものを持っていたのである。

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