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書籍案内

​小説

表紙 生きている死者 縮小版.JPG

生きている死者
 第一刷発行 2025年6月13日
 著 者 塔上月扉
 タイトルロゴデザイン
​     ミミンガ
 発行者 謎降舎
 (C)TOUGAMI TUKITO
 (C)MEIKOSYA
 価格 300円
​ 電子書籍

kindle unlimited対象

生きている死者

 ​塔上月扉

 

 【怪奇幻想、サスペンス、地方の風習、身代わり】

◆あらすじ


 病気で寝たきりの義妹のわがままは日々ひどくなってゆく。
 面倒を見るのは義妹の兄の妻である私。
 田舎町で育った平凡な自分では逃げる勇気もなく日々は過ぎてゆく。
 だがうんざりしていた日々も、義妹の死であっけなく終わった。
 義妹の葬儀の日、義両親に呼ばれて家へ行った私は意識を失う。
 そして目が覚めてみると蔵に閉じ込められていて、自分の葬儀が行われていた……。

 なぜ、誰が、何のために?

 地方に伝わる風習に巻き込まれ、逃れられない運命と恐怖が、私を蝕んでいく。

​​​​​

 

◆目次(収録内容)

  生きている死者

   不機嫌な少女

   お饅頭屋の女性店員

   義姉家族

   死者

   身代わり

   見知らぬ少年

   再婚

   人生の目的

   新たな身代わり

​​
◆おおよその文字数

  63,600文字

  (目次・奥付などを含む)

◆立ち読みコーナー

  「早く持ってきてって言ったでしょ!」
 少女は今日も、子犬のようにキャンキャンと甲高い声で叫んでいる。
 少女という言葉を目にすると、小学生か中学生までのイメージがあるのだが、目の前で叫んでいる少女は、本来なら高校を卒業した年頃だ。
 どうしても少女という文字は、幼さを感じさせる。
 海外のローティーン、ハイティーンに対応する日本語があれば、イメージを想起しやすいかもしれない。
 その少女……私の夫の妹、つまり義妹はわがままいっぱいで、少女らしい愛らしさ、やさしさ、無垢な純真さがまるで感じられない。
「唐揚げを揚げていたから、手を離せなかったの……。お茶はここに置きますね」
 入れ立てのお茶を、お盆から義妹のベッド脇の机に置きながら言う。
 だが義妹は、いまいましそうな目でお茶を睨み付けてから、こちらを向いて大声で言い放つ。
「さっき飲みたかったのよ! 飲みたいって言った時に飲みたかったの! 五分後に持ってきたって、もう飲みたくなんてなくなってるわよ」
 わがまま放題の娘。もう十八歳なのだから、少女の範疇に留まっているとは言えど、分別を持っても良い年だろう。
 それなのにいまだに、理不尽なことを平気で怒鳴り散らす。
 寝たきりの病人だから。病弱で学校にもろくに行けなかったから。友達もいないから。かわいそうだから。言っても聞かないから。しかたがないから。長生きできないから。
 義妹の家族はそんな言い訳で、娘のわがままを許している。
 いや、家族がわがままを許すのは自由だ。だが、わがままで自分勝手な言動を許すならば、自分たち自身で相手をするべきだろう。
 娘の兄の妻である自分に、すべてを押しつけたりせずに。
 他人である自分が、他人である義妹のわがままの相手をする義理は、どこにもないのだから。もし私に帰る実家があったならば、すべてを押しつけたりしていないはずだ。
 そういう意味では義妹の家族全員が、自分勝手だった。
 ここが大都会で、女一人でも働ける場所がたくさんあったなら……。
 だがこんな田舎の地方都市では、周りは義両親の知り合いばかりだ。唯一のコンビニも、唯一のショッピングセンターで働いている人々も。二つあるホームセンターも。当然農協関連も。
 夫と離婚し、この家から逃げ出して働き始めることができたとしても、働けないように嫌がらせをされてしまうだろう。裏から手を回してクビにしたり、毎日店に来てネチネチと店員である自分に因縁をつけ続けたり。
 かといって東京にいきなり一人で行って、働ける気がしない。家賃もびっくりするほど高い。そんなにも稼げる気がしない。こんな地味な性格では水商売だって無理だろう。
 大阪とか福岡なら? うまく言葉が話せる気がしない。方言がとても難しそうだ。
 名古屋は? やはり大都会だから、訛りのある自分はバカにされてしまいそうだ。
 この場所に住んでいる限り訛りは普通のことだから、好きに自由にしゃべることができるけれど、他の地域に行ったら……特に都会ほど、訛りはバカにされると聞いている。
 都会の大学へ行ったり、都会で働いて戻ってきたりした人たちのほとんどが、きれいな標準語を身につけていた。普段はこの地域の訛りでしゃべっていても、必要なときには標準語で話せる。そういう人たちならば、都会へ行って働いても、何度も聞き返されることもなく働けるだろう。
 高校を卒業して働いていた時ですら、自分はうつむきがちだった。見知らぬ多くの他人と話すのが苦手だった。働かなくて良いからと、今の夫から結婚の申し込みをされた時は、うれしくてすぐに頷いてしまった。
 親も兄弟姉妹も自分にはいない。高校生の時に事故で死んでしまった両親と住んでいた古い町営住宅のご近所さんは、朝出かける時から、帰ってくる時までじろじろ見てくる女性や老人が多く住んでいたし、夕食を作って早く寝たいのに、頻繁に訪ねてきて長話をしていったりするのも嫌でたまらなかった。
 だから主人の親と同居も、じろじろ見てくるおしゃべり好きが、不特定多数よりも二人だけに減るのが、ありがたいと思えた。
 離れもある大きな家だったから、一日中同じ部屋にいるわけじゃないはず。
 それに自分に好意を抱いて告白までしてくれる男性が、この先現れるとは思えなかった。見知った人しかいない田舎町では、新しい出会いなどないから。
 せめて観光地だったら、旅行客との出会いが映画やドラマのようにあるのかもしれないけれど。ここは何も特色のないありふれた町に過ぎない。
 山と田と畑の間に埋もれるようにして存在している田舎町と田舎町の間に、小さな村がいくつも広がる。どこまでもその繰り返し。
 そんな地域で、ごくごく普通の地味な性格の自分が、普通の男性と結婚するのは自然な成り行きのように思えたのだ。どこにも行くところもない、家族もいない自分に、神様がちょうど良い男性を与えてくれたのだと。
 そんなわけで、結婚生活は彼の家の離れでの同居から始まった。

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