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書籍案内

​小説

表紙 忠誠の騎士.JPG

忠誠の騎士
 第一刷発行 2025年2月5日
 著 者 塔上月扉
 発行者 謎降舎
 (C)TOUGAMI TUKITO
 (C)MEIKOSYA
 価格 200円
​ 電子書籍

kindle unlimited対象

忠誠の騎士

 ​塔上月扉

◆あらすじ


 ケーキ屋でバイト中に出会った野ノ宮秋都さん。なぜか気になり、彼を見ていると、ひとり言を言ったり、誰もいないのに誰かと話しているような不思議な彼。​

 だけど優しい彼に惹かれてゆく。こっそり彼を見ていたら、​どこからか口の悪い男の声が聞こえてきた。

​ 私が問い詰めると、彼はしぶしぶ答えた。

「彼は『いる』んです。私と一緒に。そうとしか言いようがないんです」と。

 彼? 彼って何? どこにいるの? 姿は見えないのに。二重人格なの? 幽霊なの? それとも守護霊? 妄想?

​ これが私と二人との出会いだった。

​ 彼と一緒にいる男の正体は一体何なのだろう。

​​​​​

 

◆目次(収録内容)

  忠誠の騎士

    第1章 友情のはじまり
    第2章 恋心のはじまり
    第3章 憎悪のはじまり
    第4章 嫉妬のはじまり
    第5章 疑惑のはじまり
    第6章 決別のはじまり
    第7章 忠誠の騎士の物語の終わり

  放浪の騎士

 

​​
◆おおよその文字数

  44,000文字

  (目次・奥付などを含む)

◆立ち読みコーナー

 

  バイト先のケーキ屋で初めて見た時から、彼が気になっていた。
 優しくて穏やかそうな微笑みに強く引きつけられ、無意識のうちに自分の視線が、彼の時にはどこか照れているような笑顔を、別の時には困っているような笑顔を追っていることに気づき、一人で顔を赤らめたりしていた。
 彼の名は、野ノ宮秋都(あきと)さん。私と同じバイトとしてケーキ店にやってきた。年齢は私と同じ二十代前半のようだ。
 同年代の男性と比べると口数が少なかったが、静かなのが好きなのだろう。
 どうしてケーキ屋でバイトを?と聞いてみると、甘いものが好きだから、という答えだった。実際、週に三日のバイト日には、必ずケーキをひとつだけ買って帰っていた。
 ただ、持ち帰り用の箱を左手に持ちながら、まるで誰かに話しかけているかのように「どれがいい?」などと、よくひとり言を言っていることだけが変わっていた。
 バイト仲間の間では、ひとり言を言う変わった彼、で通っていた。このことについては、彼はよくからかわれたりしていたが「気づかないうちに、ひとり言を言っているみたいなんです」と笑ってのんびりとした口調で答え、気にしていないようだった。まあ、癖なんて誰にでもあるものだ。
 秋都さんは、のんびりした雰囲気をしているため、たとえ釣り銭を間違えたとしても、「ああ、ごめんなさい。ぼんやりしていて」と、にっこり笑えば許してもらえる、そんな人だった。
 私は、そんな秋都さんと二人で午後のお茶の時間を過ごせたらいいなあ、と何度も空想していた。私のことを「由加里さん」なんて呼んでくれたら、うれしくて顔がとろけてしまうだろう。
 けれどケーキ店にいるときは働いているし、二人きりになれる時間などないから、相手にも周りにも気づかれぬように、ちらちらと盗み見るだけだった。

   *

 

 その日、私はついていなかったのだと思う。いや、後から考えれば、ついていたのだ。けれど、取り敢えずはついていなかった。
 八月の新作ケーキ、レモンシォンケーキを、八月一日にショーケースに入れる直前に落としてしまったのだ。それもこれも、ただつまずいただけの単純な行動が原因だった。床に落ちたのであれば、まだ少しはましだったのかもしれないが、落ちたケーキが散乱したのはショーケースの中だった。ショーケースの中の他のケーキにも白いクリームが飛び散るし、あれは後から考えても本当に酷い状況だった。クビになるのも当然だ。
 激昂した店長は、さんざん怒鳴り散らし、怒鳴っているうちに、ますます興奮してきて、かなり長く口汚く私を罵り続けた。そして怒りを自分でも止められないという様子で、私を叩こうと手を振り上げた。
 その瞬間、はっ、と店内の人間が息を呑む音が聞こえた。
 影が動いた。
 私に振り上げられた手を、誰かの手が掴んだ。

 

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