◆目次(収録内容)
たまごの子供たち
第一章 留学生
第二章 事故
第三章 たまごの血統
第四章 生母
第五章 永遠の夫婦
第六章 エピローグ
おまけ(図版)
◆立ち読みコーナー
僕がその留学生と知り合ったのは学生時代である。
寮が併設された山奥に作られた学校。真冬は多少の雪は降るものの年間を通して穏やかな気候で過ごしやすい。近くには小さな町しかなく学生たちは寮と学校の往復である。初等教育を終えれば小さな町に下宿を借りることもできる。けれど七割の学生はそのまま尞生活のまま六歳から十八歳までを過ごす。いわゆる学生の間は世間にあふれる有害な誘惑を断ち、勉学、武芸、スポーツに励み心身共に鍛えるための学校である。
中世は修道院だった学校の建物は古い石造りで世間と隔絶された環境は、世間のことに疎くなってしまいがちになる。そのため国外からの留学生を毎年入学させる決まりになっていた。国外からの留学生はおよそ一割。年によっては二割いることもある。世界中のなるべく多くの国から受け入れる方針であるため、学校の地理の授業でも習わないような小国からの留学生が入学することもある。
彼はそんな留学生の一人で、それまで違うクラスだった。
どこか古風な…と言うか正当派とでも言うようなしっかりとした顔立ちと、金髪が多い僕の国の人間の髪色とは異なるエキゾチックな漆黒の髪色が目を引いた。こう言うお堅い伝統校であるから、顔立ちが伝統的に整った学生が多いのであるが、彼もその一人に属するなと僕は判断した。今風でも庶民風でも頑固な農民風でもない。伝統的な貴族の顔立ち…不思議なことに貴族的な顔立ちと言うのは、国や出身地が違ってもどこか似通っているのである。整った顔立ちと共通した表情のようなものがそう思わせるだけだろうか。それとも単なる思い込みか。親の表情を無意識的に真似るから似てくるのだろうか。このことについて誰か分析した本があれば一度読んでみたいものだ。
